◆パン店持つ夢絶たれ、週3回の治療必要に

 自動車の販売・修理のビジネスがしたいと就労資格で15年2月に来日。東京都内の日本語学校に通った。アルバイト先のパン製造会社で人柄や仕事ぶりを買われた。「卒業後も残ってくれないか」
 フルタイムの従業員として働いた。パン作りが大好きになったが19年冬、突然体に力が入らなくなった。呼吸のたび脇腹が痛む。診断は慢性腎不全。週3回、5時間の透析が必要だ。在留資格が医療を受けるための「医療滞在」に切り替わり就労が禁止された。

 在留資格 外国人が合法的に来日して滞在し、活動できる29種類の資格。経営・管理、高度専門職といった「就労資格」、文化活動や留学などの「非就労資格」、日本人の配偶者等や永住者、定住者などの「居住資格」、法務大臣が個々の外国人について特別に指定する「特定活動」に分かれる。医療滞在は、特定活動に入る。

 収入がなくなってからは、千葉市内の支援団体から住居や光熱費のサポートを受けて暮らす。賃貸のワンルームにあるのは、最低限の家具と丁寧にたたまれた布団。壁のホワイトボードに「THANKS TO EVERYONE」(皆に感謝)と書き込む。
部屋の窓際に洗濯物を干すジョンソンさん。壁には「皆に感謝」と英語で書いたホワイトボードを掲げる=千葉市内で

部屋の窓際に洗濯物を干すジョンソンさん。壁には「皆に感謝」と英語で書いたホワイトボードを掲げる=千葉市内で

 支援団体の尽力で住民票を取得し、国民健康保険に加入できた。障害等級1級とされ医療費は無料でも、生活は苦しい。団体が集めた寄付金を毎月受け取るが、1日に使える食費は約500円。公的制度ではないため、支援が途切れないか不安が募る。
 生活に困窮し、親族から援助も得られないとき、日本国民なら生活保護が受けられる。憲法25条が生存権を保障しているからだ。
 ジョンソンさんが21年に2回、市に申請した生活保護はいずれも却下された。理由は「外国人は生活保護法に規定する国民に該当しない」とされた。

 

◆母国の制度では透析受けられない

 ガーナにも生活保護制度はある。ただし、東京大大学院の浜田明範准教授(医療人類学)によると、給付額は月額10ドル程度で、小学校教員の初任給の約10分の1。透析治療は、公的な健康保険制度の対象外だ。「現地では重病者が診断もされないまま亡くなるケースも多い」と指摘する。
 ジョンソンさんは2日おきに透析を受けなければならない。日本でないと、生きられない。
 得意のパン作りを生かし日本で自分の店を開きたいと思ってきた。今、考えられるのは「あしたまで生きられるかどうか」だけ。「働くことを許されず、生活保護も受けられないなら、どうすればいいのか。私には未来も希望もありません」
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 裁判の判決は16日、千葉地裁で言い渡される。もはや外国人労働者の存在抜きに成立し得ない日本社会で、司法はどんな判断を下すのか。争点や現行制度の課題を伝える。(加藤豊大)