「うれしいニュースだ。外国籍の人には大きなモチベーションになる。頑張れば就きたい仕事に就ける。夢を持たせてくれる」。太田市で広告会社を経営する日系3世のブラジル人平野勇パウロさん(45)は大泉町の取り組みを歓迎する。

 サンパウロ州で生まれ、10歳で来日し、大泉町の小、中学校で学んだ。娘が高校生で将来を考える時期だ。「外国籍だとなれない職業がある。公務員にもなれるなら『頑張ってみよう』という子どもも出てくるだろう。採用されれば優秀な人が町に定着していく。町が受け入れる姿勢をみせたことは、大きな信頼につながっていく」

 ただ採用後、外国籍の職員は課長職以上の管理職には就けず、徴税など公権力を行使する職にも就けないなどの制約がある。

 外国籍職員の採用に慎重な自治体は多い。

 外国人も多い太田市の清水聖義市長は「日本国籍をとってから受験してもらうのがいい」とし、国籍条項の撤廃は考えていない。

 「同じ試験を受けて入ってから、管理職にはしない、この部署にはいかせないというのはいかがなものか」。一方で、公権力の行使に当たらない公園管理などの職種は「国籍条項を撤廃していい」とも話す。

 周辺の桐生、みどり、館林の各市長も国籍条項の撤廃には慎重な考えだ。

 群馬県は22年に国籍条項の撤廃を表明後、県民から慎重な意見などがあり、23年度の実施は見送った。

 山本一太知事は1月18日の記者会見で大泉町の方針を「高く評価する」と賛同。県職員の採用では慎重な意見を踏まえた上で「多文化共生社会を目指す県としては必要なことだと思う。実現に向けて努力していきたい」とした。

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 文化交流都市を掲げる茨城県笠間市は2023年度の職員採用試験(消防職と専門職を除く)から国籍条項を撤廃し、外国籍の人も受験できるようにした。これとは別に、外国籍の人を対象にした「事務職 グローバル枠」の採用試験も始め、ウクライナ人女性(22)が合格。4月に正職員として採用される予定だ。

 茨城県牛久市は、国籍条項を撤廃し、12年にイタリア人の男性を職員として採用したことがある。ただ、それ以降は採用されたケースがないという。茨城県つくば市も1998年度実施の採用試験から国籍条項を撤廃しているが、外国籍の人が合格した例はないという。

 茨城県は、職員採用試験で行政職など36職種の受験資格に日本国籍が必要とする。「現段階で撤廃する予定はない」という。

 栃木県は、保健師や栄養士など25職種は外国籍の人も受験できるが、行政職など27職種は日本国籍が必要だ。「行政職は公権力の行使が多い」からだという。

 栃木県内で人口に占める外国人の割合が高い真岡、小山、足利の3市は、各市とも職員採用試験には日本国籍が必要で、外国籍の人は受験できない。

 埼玉県は、保健師や保育士など47職種は国籍を問わず受験できるが、行政や土木、建築など27職種は日本国籍がないと受験できない。さいたま市は、消防及び救急救命士を除く全ての職種で04年度実施の試験から国籍条項を撤廃した。建築と看護職で外国籍の2人を採用した実績があるという。(柳沼広幸)

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 〈外国人の地方公務員任用〉 「公権力の行使」または「公の意思の形成への参画」に携わる公務員は日本国籍を必要とする。それ以外の公務員は、地方自治体の判断で外国籍の人も任用できる。1996年に白川勝彦自治大臣(当時)が談話を出した。談話では「外国人の採用機会の拡大」の努力も求めた。

 川崎市は96年度の採用試験から原則として国籍条項を撤廃(消防を除く)。外国籍の職員は25人(2023年4月)。外国籍では就けない「公権力の行使」の職として市税の滞納処分、開発行為の規制、食品衛生の監視などを明示。「公の意思形成」に関わるライン以外であれば、課長級以上にも昇任できる。外国籍でも全体の8割の職務に就けるという。