内閣府の会議で共有された資料に中国の国営企業のロゴが入っていたことが問題となっている。元公安部外事課で他国のスパイと対峙し、諜報事情に詳しい勝丸円覚氏は「ここまで入り込まれていたとは」と驚きを隠さない。経済安全保障上の問題が絶えない現状を分析してもらった。また、日本の政治やビジネスに潜伏している中国スパイについて、驚きの実態を語ってもらった。(構成/ダイヤモンド・ライフ編集部)
続きを読む
● 「中国国営企業ロゴ問題」 インテリジェンス界隈に衝撃 再生可能エネルギーに関する内閣府の会議で共有された資料に中国の国営企業「中国電網公司」のロゴが入っていたことが問題視されています(NHK 2024年3月27日)。これによって、エネルギー政策という国家の根幹に関わる議論をする場に、中国の影響力が及んでいた疑惑が浮上しています。 この資料は、公益財団法人「自然エネルギー財団」の大林ミカ事業局長によって提出されたものだが、本人は「財団と中国企業・政府の金銭的、資本的、人的関係はない」(産経新聞 2024年3月27日)と中国の影響を受けたことを否定しています。 大林氏をタスクフォースのメンバーとして推薦した河野太郎大臣は、事務的なミスが生じたことを謝罪しました。しかし、ロゴが掲示されるような資料が用いられたこと自体が問題なのであって、ロゴが事務的なミスで入ったかどうかは問題ではありません。私が身を置くインテリジェンスの世界では、ここまで入り込まれていたのかという衝撃が広がっています。
● 公安は動くのか? 今回の「ロゴ問題」が、本当に中国の影響力の下に発生した事案なのかは定かではありません。しかし、ここまで大きな騒ぎになってしまった以上、公安としては動かざるを得ません。具体的には、大林氏に対するバックグラウンドチェックをしていると思います。警察庁から47都道府県に命令が出て、過去の経歴などを洗い出そうとするはずです。 過去には池袋のパスポートセンターで、中国籍の従業員が1900人分の個人情報を流出させるという事件も発生しています(NHK 2023年11月24日付)。この者が中国のスパイだったかどうか定かではありません。しかし、情報が中国側に盗まれたり、中国側に有利な情報が政治の意思決定の場に持ち込まれることを、現行の法律で防ぐことはできない状態に日本はあります。この事件の被疑者も書類送検のみで、逮捕はされていません。 昨今、話題になっている「セキュリティクリアランス」法案ですが、私はこの中に国籍の条項を設けたほうがいいと思います。現に自衛官や警察官は日本国籍の人でないとなれません。同じように、国の政策立案や生活インフラなどに関わる重要な情報を扱える人の国籍に制限を設けるというのも有効な手段になりうると思います。 もちろん、日本国籍の人でも反体制組織に所属していたり、弱みを握られていたりして他国の諜報活動に加担してる人もいますから、国籍を制限するだけで完全に他国からの影響を排除できるわけではありません。しかし、制限を設けることで他国から直接送られてくるスパイの影響を事前に防ぐことができます。したがって、国籍でスクリーニングをかけた後に、さらにその人の経歴を綿密に調べてポジションや権限を与えていくという仕組みが望ましいでしょう。 国の根幹や治安維持に関わる重要なポストや情報にアクセスできる権利は、制限されて然るべきです。スパイを取り締まってきた元公安という立場からは、懸念点について国会で議論を尽くしたうえで、スパイ行為を未然に防ぐことができる内容と運用の仕組みを備えた法律が制定されることを期待してします現在の法律では、今回のような介入の可能性を防ぐ法的な制約はゼロであるということを強調しておきたいです。
● 公安が「環境保護活動家」を 重点的にマークする理由 今回のケースがそれに当てはまるわけではありませんが、環境保護や自然エネルギーの活動には海外勢力の影響を受けやすいと私は考えています。特に脱原発や脱化石燃料という主張は、政府の考え方と相反するところがあるので、構造的に海外勢力や日本の極左集団が入り込みやすい。利害や手段が一致しやすいですからね。もちろん、ほとんどの団体は当てはまらないのですが、割合としては他の属性の団体より多い傾向にあるので、治安維持を担う公安としては重点的にマークしているのです。 今回の「ロゴ問題」では、中国国営企業のお墨付きを得た「情報」が日本政府のエネルギー政策を議論する場に上げられたことが、政策を歪めている可能性があるとして問題視されました。しかし、海外勢力の影響力は、「情報以外」でも様々な形で日本に入り込んでおり、中には政治家を直接コントロールすることで、政策が歪められるケースもされます。 古くは橋本龍太郎元首相が中国人女性のハニートラップにかかったことは有名です。最近でも、IR(カジノを含む統合型リゾート)事業をめぐる汚職事件で逮捕された秋元司元衆議院議員は、中国企業から賄賂を受け取っていましたし、自民党所属の松下新平参議院議員も週刊誌で中国籍の元美人秘書が書類送検されたことが報道されました(デイリー新潮 2024年3月2日)。
● 日本企業に入り込む 中国の産業スパイ 日本には、中国のスパイとその協力者が数万人規模でいると言われています。中国のスパイは現場には姿を現すことはなく、膨大な数の協力者たちをリクルートし、組織化して活動させる指揮官のような存在です。また、中国の情報機関は、留学生を利用する特徴があります。卒業後にそのまま企業に就職する人も多いので、企業の中に送り込むにはうってつけです。学生のうちから協力させることもあれば、就職してからリクルートすることもあるようです。 実際に、2020年10月には積水化学工業の元社員がスマホの液晶画面に使われる技術を中国企業に不正に漏洩した罪に問われました。中国企業は、SNS「リンクトイン」で元社員に接触していたそうです。しかも、その元社員は解雇された後に、別の中国企業に転職していたと言います。また、2020年1月にはソフトバンクの機密情報を不正に取得した元社員が、報酬の見返りにロシア元外交官にその情報を渡していたことが発覚。有罪判決を受けています。 しかし、このように表に出てきて事件化されたケースは氷山の一角に過ぎません。盗まれたことにすら気がつかないケースもありますが、産業スパイ被害にあった企業が被害を公にしたがらないことが一番の要因です。産業スパイに機密情報を盗まれたことが知れれば、株価に影響したり、取引先からの信頼を失ったりするリスクがありますから。 こうした現状を打開すべく、最近では警察庁も経済安全保障の専従班を設置して、アウトリーチ活動に力を入れ始めています。これは外事警察が民間企業に出向いて、産業スパイの手口を紹介するものです。かつては、公安が民間にスパイの手口を教えることはありえませんでした。スパイ側に情報が漏れると対策を打たれる可能性があったからです。しかし、被害件数が増えてきたことや岸田政権が経済安全保障担当大臣のポストを設置して以降、潮目が大きく変化しています。私のような外事警察出身者がスパイに関する認知や対策を広める活動をしていることを、警察も歓迎してくれるよになりました。 日本は常に他国のスパイから狙われており、今、話題になっているセキュリティ・クリアランス制度をはじめ、スパイ活動を防止するための法案整備が急がれます。
引用元 https://news.yahoo.co.jp/articles/cdfae4eaea64e1cd9457b7b967dacb68bad36421?page=2
みんなのコメント
- 今回の問題について丁寧にまとめられています
- スパイ防止法を大至急法整備!
- 企業どころか政府内にスパイがいっぱい
- 国の根幹や治安維持に関わる重要なポストや情報にアクセスできる権利は、制限されて然るべきです 一般企業でも行われている当たり前の事なのに
- 日本の公安は大変優秀だと思います。ただ、法的に整備されていない点 即ちスパイ防止法がない、そのため、別件でということで遠回りしなければならないという。
コメント