救急車は有料化されていない! 病院の「受診料」が高くなるだけだ
松坂市が軽症者に「選定療養費」
筆者(伊波幸人、自動車ライター)は、当媒体に「救急車はもはや“有料化”すべき? 出動件数「過去最高」というハードな現実、賛否渦巻くワケとは」(2024年1月12日配信)という記事を書き、救急医療の崩壊が現場から危惧されていることを伝えた。 三重県松坂市では2024年6月から、「入院に至らない軽症者」が救急車を利用した場合、病院が7700円の「選定療養費」を徴収することとなった。
選定療養費は地域医療支援病院制に基づくもので、200床以上の地域医療支援病院を受診し、紹介状を持たない場合に徴収される。つまり、救急車の有料化ではなく、病院の 「診察料」 が高くなるというわけだ。一方、救急車を利用して「入院に至らない」場合でも、次のような対象者には選定療養費は徴収されない。 ・かかりつけ医などから紹介状を持っている ・生活保護など公費負担医療制度の対象者 ・医師が救急の患者と判断した場合 紹介状があると、なぜ選定療養費は徴収されないのか。その理由を知ると、そもそも受診料が高くなったわけではないことに気づく。そこで本稿では、救急車の適正利用を促す背景と病院受診の制度について解説する。
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機能分化の背景
救急車(画像:写真AC)
選定療養費が徴収されるようになったのは、2016年からである。高度で専門的な治療は大病院で 初期診療や安定した病状の管理は地域のかかりつけ医が行うという「機能分化」が提唱され、実施された。 ・高齢化にともなう医療需要の増加 ・ネームバリューのある大学病院や大病院の方が安心という考え方 が背景にあると推測される。 また、かかりつけ医が初期診療を行い、精査が必要な症状や手術に適した患者を判断し、大病院につなぐことで、効率的な医療提供体制を実現している。 このような背景から「かかりつけ医制度」が確立され、紹介状を持たずに大病院を受診した患者には選定療養費が徴収されることになった。そのため、軽症の患者が大病院を受診した場合、選定療養費はそもそも徴収され、救急診療の時間帯にきちんと診察を待っていれば徴収されない。 では、なぜ今まで軽症の救急車利用者には選定療養費が徴収されなかったのか。それは、救急車を利用して受診する患者が、救急医療の対象者かどうかの判断に迷っていたからだ。
松阪市以外も徴収
2018年の厚生労働省通達で流れが変わった。次の文章をご覧いただきたい。 ・問:選定療養費の徴収を認めない「救急の患者」とはどのような患者を指すのか。 ・答:医療機関の判断、少なくとも単に軽症の患者が受診した場合はその限りではない。(厚生労働省|平成30年3月30日 疑義解釈資料「問220」より抜粋・改変) つまり、医療機関の判断で救急車を利用した軽症患者から選定療養費を徴収できることが法的に担保されたのである。実際、松阪市以外にも、軽症の救急車患者から選定療養費を徴収している自治体がある。 ・日本赤十字社伊勢赤十字病院(三重県伊勢市) ・豊川市民病院(愛知県豊川市) ・半田市立半田病院(愛知県半田市) などだ。ただ、有料化が報道されることで、救急車の適正利用を促す効果が期待される。海外では、台湾(台北市)の事例が参考になるだろう。 海外消防情報センター(消防庁など関連団体による協議会)の調査によると、台北市の救急車出動件数は13万7000件から8年間で約1割減少している。日本とは状況が異なるため単純比較はできないが、救急車の適正利用の効果を注視していく必要がある。 なお、救急車利用に関する相談は、緊急救援センターが電話番号7119で受け付けている。
高齢者施設による救急搬送依頼
筆者は、松坂市が救急車を切実に求めている背景には、もうひとつの理由があると考えている。それは、高齢者施設の増加と夜間の人員確保である。松阪市では、2020年に「地域包括ケア推進会議」を開催し、「介護施設内における救急搬送の現状と課題について」議論した。 「(救急車に)1名乗ってしまうと、グループホーム自体が人がいない状況になってしまいますので、(救急車に)乗れない状況が発生するということです。対策として~」 が抜粋部分だ。筆者が入手したアンケートのなかには、介護職員による救急車要請の判断が「発熱だけ」というものもあった。これはいわゆる軽症に分類される。 実際に判断するには、「夜間救急病院を受診して救急度の判定」をする必要があるが、少人数で高齢者集団を介護している現状では、救急病院に連れて行くマンパワーの確保が難しい。だから、救急車を呼ぶしかない。自宅にいれば、家族が対応できるだろう。これは介護制度の問題である。 広域的な問題であるため、夜間の救急病院受診に介護タクシーや訪問看護師の自家用車を利用できるような仕組みを、行政委託などで検討する必要があるだろう。
報道と現場の認識違い
最後に、救急車の適正利用を推進する重要な視点を紹介したい。 各ニュースの見出しには、「救急車の有料化」を連想させる言葉が並ぶ。しかし、救急車が有料と認識されると ・有料だから優先的に受診できる ・有料だからタクシー代わりに利用できる などと誤解される。そもそも、松坂地区広域消防組合に苦情が寄せられ、現場が困るケースも想定される。 救急車の適正利用を推進するための重要なポイントは ・悪質な利用を抑制する(タクシーとしての利用) ・軽症者に対する適切な救急受診を周知する(#7119など) ・軽症者を判断し、隠れた重症者を見落とさない仕組みを作る ・悪意なく救急車を利用する独居高齢者や知的障害者を適切な施設につなぐ ・本当に救急車が必要なときには、ちゅうちょなく救急車を呼べる ことだと、筆者は考えている。現場では、頻繁に救急車利用を要請する独居高齢者を個別に訪問するなど、救急車の適正利用を促す体制が整いつつある。 行政機関が救急車の適正使用を奨励し、政治がこの責任を担っていることは評価できる。メディアもまた、救急車の適切な利用を促進する手助けをしなければならない。
伊波幸人(自動車ライター)
引用元 https://news.yahoo.co.jp/articles/5d8aab5bcca63b7b9622842275c822f5f241b56a?page=3
みんなのコメント
- 有料化でややこしくなるならタクシー代わりに使うような悪質な人は業務妨害として警察に通報すればいいのでは? パトカーをタクシー代わりに使おうと110番する人がいないのは逮捕されるリスクがあるから 救急車も同様のリスクを与えればいいと思います。
- ホント、題名通り。現場に行く救命士には何にも変化なく、待っている病院側の金額が上がるだけで、呼ばれた救急隊の負担や手当が変わるわけではない。
- 救急隊の立場からしても選定療養費はややこしい。病院側も収容してから説明すればいいものを、収容依頼の確認時に救急隊から傷病者(又はその家族)に選定療養費がかかる旨を説明させられる。大体の人は納得するが、中には金がないからとその病院を辞退する人まで出てくる始末。取り組みは良いことだとは思うけれど、救急隊としては収容後にやってくれと毎度思う。最も、先に確認してるのは言っておかないと会計の時に揉めるから、それの防止の意味もあるのだろうが…
- 軽症だと思って様子見したら実は重症で死亡したら施設は家族から訴えられるだろうから結局人手不足だから救急車を呼ぶんだろうな。
- 選定療養費を請求できない 生活保護の患者さんの救急車利用 やER受診かなり多いです。 救急車料の徴収に賛成です。 地域医療や災害問題に真面目な議員さんが居る市町村とそうでない市町村消防職員さんの御苦労がかなり違いすぎます。
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