プライバシーをさらすほどの利便性は得ていないかもしれない、自分を守るためにできること
あなたの位置情報データは、主にスマートフォンアプリによって収集されている。あなたが交通情報や天気をチェックしたり、近くのレストランを調べたりするたびに、民間企業があなたの位置情報を収集している可能性がある。(PAU BARRENA, AFP)
ネットに依存していようと、現代の“ラッダイト”として反発していようと、あなたがどこで食事をし、眠り、買い物をし、時間を過ごしているかというデータは容易に手に入れることができる(編注:ラッダイトとは、第1次産業革命時に機械化に反対して破壊活動した労働者を指す)。 ギャラリー:人類が地球を変えてしまったと感じる、空から撮った絶景 写真23点 私たちは今や、どこに行くにも小さなコンピューターを持ち歩いている。そして、ほとんどすべてのコンピューターが、あなたの位置情報をはじめとする膨大な量の個人情報を収集して民間企業と共有している。企業は、こうした情報を誰かに販売することができる。 アメリカ自由人権協会(ACLU)マサチューセッツ州支部の「自由のための技術」プログラムを率いるケイド・クロックフォード氏は、「トラッキング(追跡)デバイスは、私たちに驚異的な能力を授けてくれました。世界中の誰とでもつながり、これまでにない大量の情報にアクセスできるようになったのですから」と語る。「その一方で、企業や政府が私たちの一挙手一投足や思想までも追跡することを可能にしてしまいました」
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位置追跡技術に「ノー」と言えない理由
ある種の人々にとっては、追跡技術は安心感を与えてくれる。位置情報共有アプリを使って友人や家族に自分の居場所を教えている人は多い。 親は幼い子どもの居場所を知るために米アップルの「エアタグ」や韓国サムスン電子の「ギャラクシー スマートタグ」を身につけさせているし、飛行機を頻繁に利用する人は荷物の紛失に備えてタグを付けている。SNSユーザーにとってはジオタグ付きの映えスポットの写真はなくてはならないものだ。 利便性も大きな利点だ。グーグルマップやアップルマップのようなナビゲーションアプリは、リアルタイムの位置情報を不特定多数から得て地域の道路状況に関する情報を収集し、ドライバーに経路を選択するための参考情報を提供したり、お勧めの訪問地を検索結果に表示したりしている。 同様のトラッキングソフトウェアは天気アプリなども採用しており、GPS(全地球測位システム)やブルートゥースなどデバイスのセンサーを通じてデータを収集している。 近年は自動車保険会社も、顧客のリスクを予測するために車両診断データの追跡を始めている。アクセルやブレーキの踏み具合などの情報に基づいて、保険料を見直したり割引したりするのだ。 消費者が個人データを収集されても、そのデータに基づいてより良い製品やサービスが提供されるようになるなら抵抗は少ないだろう。 しかし、米カーネギーメロン大学ハインツ・カレッジ教授で、情報技術と公共政策を研究しているアレッサンドロ・アクウィスティ氏は、「経済の観点からは、個別化されたネット体験から誰が最も利益を得るかはそれほど明確ではない」と指摘する。これには、位置情報から生成される行動ターゲティング広告なども含まれる。例えば、カフェによく行く人には、コーヒー商品や近くにある他の店の広告が表示されるといったことだ。 「広告代理店は、消費者について収集した大量の情報を、主に自分たちの利益のために戦略的に利用できます」とアクウィスティ氏は言う。「トラッキングは、広告においては、一般に言われているほど消費者にとって有益ではないようです」
あなたの位置情報データにアクセスする人々
スマートフォン(スマホ)、スマートウォッチ、コンピューターが私たちの個人情報を共有しているのは明らかだが、私たちが知らず知らずのうちに秘匿性の高い情報を共有しているテクノロジーはほかにもたくさんある。 バンキングアプリには、詐欺の判断や疑わしい取引の防止に役立てるため、スマホの位置情報を追跡しているケースがあることが分かっている。ホームセキュリティーシステムは位置情報を使ってジオフェンスと呼ばれる仮想境界を設定し、特定の機能の自動化に役立てている。例えば、ジオフェンスの外に出ると自動的に在宅モードから外出モードに切り替わるといった具合だ。空港に設置されている顔認識機能内蔵カメラのデータは、空港利用者に不利益をもたらすかもしれないというセキュリティー上の懸念が提起されている。 あなたがウェブサイトをクリックしたり、クッキーに同意したり、クレジットカードで買い物をしたりすることも、“あなたのデジタル日記”として逐一書きとめられている。 米コロンビア大学ビジネススクールの計算社会科学者で、ビッグデータを使ってオンライン環境と人間の行動との関係を研究しているサンドラ・マッツ・サーフ氏は、「個々のデータは、脅威には見えないかもしれません」と言う。「けれどもこうしたデータの痕跡を組み合わると、あなたがどのような人物なのか、かなり正確に把握することができるのです」 こうしたデータは、最も高い価格で入札する人に売られる。あなたに関するデリケートな情報が、データブローカーから外国政府や法執行機関、雇用主に流れる可能性があるのだ。 デジタルプライバシーと言論の自由の擁護を目的とする非営利団体「電子フロンティア財団」に所属するセキュリティー・プライバシー活動家のソーリン・クロソウスキー氏は、「自分自身に関するデータが世界にどれだけ拡散しているのか、個人が把握することは不可能だと思います」と話す。 よからぬ者が他人の位置情報を手にすれば、潜在的な被害者を見つけて危害を加えることもできる。家庭内暴力の加害者から身を隠していた被害者が、トラッキング技術によって加害者に発見され、脅迫される事例は後を絶たない。詐欺師やハッカーは、より詳細なオンライン情報や位置情報を使って、ターゲットを絞ったフィッシング詐欺を行ったり、盗まれたIDを入手したりしている。 米国では警察の捜査に役立てるために位置情報や検索履歴データを利用することも多く、つい最近まで特定の地域にいた可能性のあるユーザーの令状を取るために利用されていた。さらに大規模なプライバシーの侵害により、女性が中絶手術を受けられなくなり、その生活や精神的な健康が危険にさらされる可能性もある(編注:日本では、2017年に最高裁判所は令状のないGPS捜査を違法とする判断を示した)。
プライバシーを守るためにできること
マッツ・サーフ氏は、「もし本当に自分のデータを完全に管理しようと思ったら、24時間365日かかりっきりになるでしょう」と言い、「そんなことはできません。私たちは意味を十分に理解していませんし、時間もありません」と続ける。 ACLUマサチューセッツ州支部は2023年、マサチューセッツ州におけるスマホの位置情報の売買禁止を目指すキャンペーンを立ち上げた。このキャンペーンは、企業が携帯電話の位置情報を収集したり処理したりする前にユーザーの同意を得ることを義務付ける法案を支持している。クロックフォード氏は、「この法律が成立しても、人々がグーグルマップのような重要なサービスにアクセスすることは可能だが、企業がそのデータを一般市場で販売することはできなくなるだろう」と話す。 そして、「位置情報を保護することは、テクノロジーが私たちのプライバシーや身体の自律性、自分自身の生活をコントロールする能力を損なうことなく、私たちの創造性や生産性や探究、つながり、コミュニケーションを向上させるために必要な保護を確保することなのです」と説明する。 クロソウスキー氏は、自分の位置情報データの流出を防ぐために個人レベルでできることとして、広告IDを無効にし、スマホのプライバシー設定をよく理解し、どのアプリが位置情報データにアクセスしているかを確認することを勧める。 「プライバシーを求めることは、人間の脳に普遍的に備わっている特徴のようです」と、アクウィスティ氏は言う。「人間は、どれほど厳しい監視環境に置かれても、なおプライベートな空間を作り出そうと努力し続けるのです」
文=Tatyana Woodall/訳=三枝小夜子
引用元 https://news.yahoo.co.jp/articles/b176e7b73a3b0c7cd46f2b2a4d557d549611ba83?page=3
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