永田町で日々論戦を交わす国会議員たち。定数は衆院465、参院248で、欠員がなければ計713人が活動していることになります。議員数は多いほど幅広い民意をくみとれますが、その分、歳費など経費をまかなう税金の額は増えます。今の議員定数、削減するべきなのでしょうか? 【グラフ】過去の国会議員選挙、獲得議席数の割合
政策や法律を論じて国の針路を定めるのが国会議員の仕事ですが、残念ながら不祥事も少なくありません。自民党派閥の「政治とカネ」の問題では不透明な資金の流れが明るみに出ました。野党でも昨年、参院議員に当選しながら一度も登院せず除名され、逮捕された人物が話題になりました。
こうした状況に、有権者の不信感は募っています。立憲民主党を支持する横浜市の会社役員(41)は、「政治家は数より質。まともに仕事をしない議員に税金を払いたくない」と憤り、定数削減を求めます。
国会議員の活動には多くの税金が費やされています。年約1550万円の歳費や月100万円の調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)、月65万円の立法事務費など支給額は議員1人あたり年間4000万円以上。国会議事堂近くにある議員事務所の維持管理費や公設秘書3人の給与、地元と東京を往復するためのJRパスや航空券にも公費が充てられています。
いずれも民主主義を支えるための必要なコストですが、定数が減れば経費が削減できることも事実。「身を切る改革」を掲げる日本維新の会の藤田文武幹事長(43)は「政治家が身分や待遇に固執する姿に国民はうんざりしている」として、国会議員が自ら定数や報酬の削減に取り組むことが、政治の信頼回復につながると訴えます。
定数は戦後、人口の変化や政治改革などを受けて増減してきました。1947年の第1回国会の時の定数は衆参両院で計716。その後、都市部の人口増加や沖縄県の本土復帰などで、86年には衆参計764まで増えました。90年代になると、リクルート事件や東京佐川急便事件など「政治とカネ」の問題が噴出して改革の機運が高まり、段階的に削減されて現定数となった経緯があります。
今の日本の総人口は、1億2494万人(2022年10月1日現在)。定数が最も多かった1980年代半ばとそう大きく変わりませんが、当時とは異なり、人口は減少局面に入っています。高齢化に伴う社会保障費の増大のほか、防衛力強化や少子化対策などでも、財源確保のために国民に負担を求める政策の必要性が高まっています。
上山信一・慶大名誉教授(公共経営論)は、「国会議員は待遇が恵まれすぎている。定数削減は、少数意見が切り捨てられることがないような方法で実現できれば、国民の負担が避けられない中では、政治に対する信頼構築に向けたメッセージになる」と指摘しています。
[B論]有権者の代弁者、減れば民意届かず政治に関心薄れる恐れ
選挙で選ばれる国会議員は、国政での有権者の代弁者です。代弁者を減らせば、政治が有権者からより遠い存在となり、関心が薄れるおそれがあります。
2016年の参院選から「合区」が導入された徳島、高知両県では、その影響が如実に表れています。参院選の選挙区は通常、都道府県ごとですが、両県は人口が少ないため一つの選挙区に統合されました。
自民党を支持する徳島県吉野川市の会社役員の男性(46)は、昨年10月の参院徳島・高知選挙区の補欠選挙を「人ごとのような雰囲気があった」と振り返ります。補選に出馬した2候補はいずれも高知出身で、徳島の有権者にはなじみが薄かったのです。
この時の徳島の投票率は、過去最低の23・92%。選挙区が広く、街頭演説などで候補の訴えに直接触れる機会が少ないことも、選挙が盛り上がらない要因です。国会議員の数が減るほど、同じような地域が増えてしまうかもしれません。男性は、「地方創生を本気で進めるなら、地方の議員はむしろ増やした方がいい」と提案します。
諸外国と比べ、日本の国会議員の数はむしろ少ないとのデータもあります。
各国の議員交流団体「列国議会同盟」(IPU)の試算によると、日本は約17万5000人につき1人の議員を選出しています。経済協力開発機構(OECD)加盟38か国中、議員1人あたりの人口規模が日本より大きいのは米国とメキシコのみ。日本は、英国(約4万6000人)やフランス(約7万人)などと比較すると、きめ細かい民意が反映しにくいと言えます。
定数を削減するには各党の合意が必要ですが、自民党内には慎重意見が多いほか、共産党は明確に反対しています。共産の小池晃書記局長(63)は「定数を削減することは民意を削減することだ」とした上で、「議員が減れば法案に接する機会も減り、十分な審議ができない」と心配します。
衆院には17常任委員会(総定数620)と8特別委員会(同265)があり、首相や閣僚などを除くと議員は平均二つ以上の委員会に所属しています。これ以上委員会の掛け持ちが増えれば、議論の質の低下を招きかねない――というのが小池氏の指摘です。
駒沢大の大山礼子教授(政治制度論)は、定数削減には弊害が大きいとして、政治改革としての定数削減の主張を「ポピュリズム(大衆迎合主義)的な受け狙い」と見ます。「国会議員に不満があるなら、数を減らすのではなく『もっと仕事をせよ』と言うのが筋だ」と話しています。
「1票の格差」と密接
定数削減の是非は、「1票の格差」と密接な関係があります。1票の格差とは、選挙区ごとの人口の違いが、有権者の投じる1票が持つ「価値の差異」を生み出している問題です。
例えば、地方の5万人の選挙区で3万票を得票すれば当選確実ですが、都市部の10万人の選挙区での3万票なら落選しそうです。この場合、同じ「3万票」でも国会議員を選出できる地方の1票の方が価値が高いことになります。
格差是正には各選挙区の人口をできるだけ等しくする必要があるため、地方の選挙区を広げて数を少なくし、その分を都市部に回す方策がとられてきました。首都圏などへの人口集中が進む限り、地方の代弁者は減る一方です。現行制度のまま選挙区の定数をさらに削減すれば、しわ寄せは地方に来る可能性が高いと言えます。
選挙区ではなく比例代表の定数を削減した場合は、選挙区が基本的に大政党に有利のため、相対的に少数意見が反映しにくくなる懸念も。比例選出議員が多い政党の反発も予想されます。1票の格差にとらわれない抜本的な選挙制度改革を求める声は根強いものの、各党間で具体的な議論は進んでいないのが実情です。
そもそも、議員定数の削減が議論される背景には、「政治とカネ」の不祥事などで政治不信が高まっていることがあります。自民党をはじめとする各党は与野党を超え、政治資金の透明化などを通じて政治への信頼回復に取り組まなければいけません。(政治部 大嶽潤平、田ノ上達也)
[情報的健康キーワード]プレバンキング
偽情報に繰り返し触れると、その情報を「正しい」と感じるようになってしまい、どんなに訂正する情報を与えても考えを改めるのが難しくなると言われています。
そこで最近注目されているのが、予防接種のように、あらかじめ偽情報に対する免疫を作る「プレバンキング」と呼ばれる手法です。敵のプロパガンダによる兵士の洗脳を防ぐため、米国の研究者が1960年代に唱えた理論ですが、現代にアレンジした方法が世界的に普及し始めています。
具体的には、偽情報の発信者の立場になり、「なりすまし」「感情操作」「個人攻撃」など攻撃者が使う手口を学びます。海外の教育現場ではゲームやクイズ形式で教えられており、偽情報にだまされにくくなる効果が出たという報告もあります。日本ではまだ広がっていませんが、教育現場などへの導入を求める声も上がっています。
コメント