ごみが漂う海でウミガメが誤って食べたポリ袋を胃腸に詰まらせ、苦しんで命を落とす。テレビやインターネットの映像を通じて人々が思い描く環境問題のイメージだ。だが科学研究からはプラスチックのごみをよく食べるウミガメの方が、かえって生息数を増やしたことが分かった。ウミガメの悲話から世界に広がったプラスチックの使用を控える運動は、環境問題の深刻さを感情に訴える難しさを浮き彫りにした。
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【JSFさんの投稿】
引用元 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG23APV0T20C24A7000000/
ウミガメがポリ袋を誤飲し、それが原因で死亡するという話は、環境問題を考える上で象徴的なイメージとして広く浸透してきた。しかし、最近の研究では、プラスチックごみをよく食べるウミガメの方が生息数を増やしているという驚くべき事実が明らかになった。これは、これまで信じられてきた「プラスチック=ウミガメの死因」という単純な図式に疑問を投げかけるものであり、環境問題を感情的に訴えることの難しさを示しているのではないか。
ポリ袋が海洋生物に悪影響を及ぼすという考えは、多くの人にとって「常識」だったはずだ。特に、SNSやテレビなどで拡散されたウミガメの悲しい映像は、多くの人の心を動かし、「脱プラスチック運動」を推進する大きな原動力となった。しかし、こうした運動が科学的な根拠に基づいていたのかというと、必ずしもそうとは言い切れない。
今回の研究によれば、プラスチックごみを誤飲したウミガメの死亡率が高いとは限らないどころか、むしろ生息数の増加が見られるという。この事実が示すのは、「プラスチックがウミガメを絶滅に追いやる」という単純な話ではなく、より複雑な生態系の変化が起こっている可能性だ。
もちろん、プラスチックごみが海洋環境にとって悪影響を及ぼさないとは言えない。実際、マイクロプラスチックによる生態系への影響や、海洋汚染の問題は無視できるものではない。しかし、「ウミガメがポリ袋を食べて死ぬ」というイメージだけが一人歩きし、それに基づいて政策が進められるのは問題ではないか。
環境問題を考える際、感情に訴えるストーリーは重要な役割を果たす。人々の関心を引き、行動を促すためには、心を動かす「象徴的な事例」が必要だ。しかし、その事例が必ずしも科学的な事実に基づいているとは限らないことが、今回のウミガメの話からも分かる。
こうした「感情に訴える環境運動」が問題なのは、科学的根拠に基づかないまま、企業や政府の政策決定に影響を与える可能性があることだ。実際、プラスチック製ストローやレジ袋の廃止といった政策が、環境への効果を十分に検証されることなく進められてしまったケースも多い。
レジ袋有料化の例を見ても、果たしてどれほどの効果があったのか疑問が残る。確かに使用量は減ったかもしれないが、その代わりにエコバッグの大量生産が進み、製造過程での環境負荷が増えた可能性もある。また、レジ袋を再利用してゴミ袋として活用していた人も多く、むしろ家庭のプラスチックごみが増えたという意見もある。
さらに、プラスチックを削減すること自体が目的化してしまい、本来の環境保護の目的が見失われることも問題だ。例えば、紙製のストローが導入されたが、耐久性が低く、結局プラスチック製のコーティングが施されているケースもある。これでは本末転倒ではないか。
こうした問題の背景には、「環境問題は善である」という絶対的な価値観が存在する。しかし、本当に環境を守るためには、感情論ではなく、データに基づいた冷静な議論が必要だ。特に、プラスチック問題は非常に複雑であり、単純に「脱プラ=環境保護」と決めつけるのは危険だ。
たとえば、プラスチックが果たしている役割を考えてみると、必ずしも悪者にするべきではないことが分かる。食品の包装に使われるプラスチックは、食材の鮮度を保ち、食品ロスを減らす役割を果たしている。もしプラスチック包装を全面的に廃止すれば、食品の廃棄量が増え、結果的に環境負荷が大きくなる可能性もある。
また、医療の現場では、プラスチック製品が不可欠な存在だ。使い捨ての医療器具は感染症対策に大きく貢献しており、これを安易に「環境に悪いから廃止すべき」とするのは現実的ではない。
ウミガメの悲話から始まった「脱プラ運動」は、確かに多くの人々の意識を変えた。しかし、その根拠が揺らいでいる今、もう一度冷静に環境問題を考え直すべきではないか。科学的なデータに基づき、効果的な政策を進めることこそが、本当の意味での環境保護につながるはずだ。
今後の環境政策は、感情論ではなく、データと実証に基づいたものにするべきだ。ウミガメの悲話が生み出した脱プラ運動が、実は環境保護とは逆の影響を与えているかもしれないことを考えれば、なおさら慎重な議論が必要になるだろう。
環境問題は、単なるイメージではなく、実際にどのような影響を与えるのかを見極めた上で取り組むことが大切だ。ウミガメの例は、その重要な教訓を私たちに示しているのではないか。
執筆:編集部A