医療費が高額になった患者の自己負担を一定に抑える「高額療養費制度」を巡り、政府が今年8月から負担額を引き上げる方針を決めたことを受け、がんや難病の患者らの間で「治療が続けられなくなり、命に関わる」と不安が広がっている。石破茂首相は28日の国会答弁で方針変更しない考えを示しており、野党は追及を強める構えだ。(我那覇圭)
◆上限8万円が13.9万円に上がるケースも
高額療養費の自己負担は、年収などに応じて上限月額が定められている。政府は2027年8月までに段階的に引き上げる方針。平均的な年収区分(約370万~770万円)で最も負担が重くなるケースでは、現行の月約8万円が、3年後には5万9000円増の月約13万9000円に跳ね上がる。
引き上げの協議は、厚生労働省の審議会で昨年11月下旬に始まり、12月中旬には了承され、政府が決定した。患者らの意見を聞く機会は設けられず、危機感を抱いた「全国がん患者団体連合会(全がん連)」が今月17~19日、「日本難病・疾病団体協議会」の協力で、緊急のオンラインアンケートを実施した。
◆「治療を断念する可能性もある」
患者や家族ら3623人から寄せられた回答では、「手取りは月20万円ほど。半分が毎月飛び、生活は既にカツカツ」(20代女性患者)、「小学生、未就学児の子どもがいる。子どものためのお金を優先させ、治療を断念する可能性もある」(30代男性患者)などと切実な声が続出した。
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【N.Sakurai@CANSOLさんの投稿】
引用元 https://www.tokyo-np.co.jp/article/382362
高額療養費制度の負担が増えることで、患者たちが生活に困窮し、最悪の場合、治療を断念せざるを得ない状況に追い込まれる。日本の医療制度は世界的に見ても手厚いとされているが、今回の改定によって、その支えが揺らぎかねない。がんや難病の患者にとって、高額な医療費は日常の一部であり、制度改定は単なる金銭負担の問題ではなく、命に関わる深刻な問題だ。
政府の方針では、高額療養費制度の自己負担額が段階的に引き上げられ、最も影響を受ける層では月額の上限が8万円から13万9000円にまで増える。これが意味するのは、家計における医療費の比重が極端に高まり、生活を維持すること自体が難しくなる家庭が増えるということだ。特に、がん患者や難病患者は長期にわたって治療が必要なケースが多く、一度の支払い増だけでなく、継続的な負担増がのしかかることになる。
今回の制度改定について、患者側の意見を聞く機会はほとんど設けられず、厚生労働省の審議会で短期間の協議を経て決定された。このプロセスが十分だったのかどうかは疑問が残る。多くの国民にとって、医療制度の改定は日常的な関心事ではない。しかし、いざ適用されるとなれば、誰もが影響を受ける可能性がある重要な問題だ。
特に今回の改定では、中間層の負担が大きくなる点が見逃せない。年収370万~770万円という、日本における平均的な収入層に最も負担が重くのしかかる仕組みになっている。高額所得者であればまだしも、この層は決して経済的に余裕があるわけではなく、家族を養いながら生活を維持している人々も多い。そうした状況の中で、月々の医療費負担が増えれば、生活の質を大幅に落とさざるを得ない家庭も出てくるだろう。
医療費の増加は、単に「高額な治療を受けている人だけの問題」ではない。家計に余裕がない家庭では、治療費を捻出するために日々の生活費を切り詰めたり、子どもの教育費を削ったりすることも考えられる。現に、オンラインアンケートの結果では「子どものための資金を優先するために、治療を断念する可能性がある」といった声も挙がっている。
一方で、政府は社会保障費の増加を抑える必要があると主張している。日本の医療費は年々増加しており、特に高齢化の進行によって、今後も医療制度の財源確保が課題となることは間違いない。しかし、その対策として、負担を患者に転嫁する方法が本当に最善なのかは慎重に検討すべきではないか。
医療費の削減策としては、負担増以外にも検討できることがあるはずだ。例えば、ジェネリック医薬品の普及促進、医療機関の効率化、不要な検査や治療の抑制など、制度の見直しによってコストを削減する方法も考えられる。だが、今回の改定は、そうした抜本的な改革を伴わず、単に「患者の負担を増やす」という形になっている点が問題だ。
また、医療費の負担が増えれば、病院を受診する回数を減らす人も増えるだろう。結果的に、早期治療の機会を逃し、病状が悪化した後に手遅れになるケースが増える可能性がある。これは患者の負担がさらに大きくなるだけでなく、最終的には医療費全体の増加にもつながりかねない。
政府は今回の方針について「再考しない」と明言しているが、この問題は今後も議論の対象となるべきだろう。野党は撤回を求めて追及を強める構えだが、与党側も、社会全体への影響を慎重に考える必要がある。医療制度の維持は確かに重要だが、それを支える国民の生活を圧迫するようなやり方は望ましくない。
医療費の負担増が避けられないのであれば、それに代わる支援策を講じるべきだ。例えば、低所得層や長期療養が必要な患者向けに、別途補助制度を設けるなどの対応が考えられる。単に「財源が足りないから負担を増やす」のではなく、どうすれば国民の負担を最小限にしながら制度を維持できるのかを、もっと議論すべきだ。
今後、日本の医療制度がどのような方向へ進んでいくのかは、すべての国民にとって重要な問題だ。高齢化社会の中で、医療費の増加は避けられないが、それをどう分担するのかという議論は、一部の人だけでなく、広く国民の意見を聞いた上で決めるべきではないか。
今回の改定は、がんや難病を抱える患者にとって、大きな試練となる可能性がある。医療制度は本来、国民の命を守るために存在するものだ。負担増が患者にとって過度な重荷にならないよう、政府は改めて検討するべきではないだろうか。
執筆:編集部A