【映画】『「i-新聞記者ドキュメント-」』の出演者がヤバすぎる!

《11/15(金)公開!映画「i ―新聞記者ドキュメント―」》試写会直後の望月衣塑子さんにインタビューを敢行!「自分をスクリーンの中で見た感想は?」

取材・文:角川新書編集部 

 11月15日(金)より映画『i ―新聞記者ドキュメント―』 が公開されます。森達也さんが監督を務め、東京新聞の記者、望月衣塑子さんを追う、という内容です。
 カドブン編集部は、試写会でこの映画をご覧になった直後の望月さんにインタビューを敢行! スクリーンを通して自分自身を見るのはどんな感じでしょうか。どんなふうに見えたでしょうか。森監督との撮影裏話も飛び出しました。(取材 角川新書編集部)

自分でも心配になる猪突猛進さ


――まず見終えての率直な感想をお聞かせください。

望月衣塑子さん(以下、望月):自分が仕事をしている姿を客観的に見るのは初めてだったのですが、基本的に戦っていました(笑)。すがさん(すが義偉よしひで官房長官)に質問し、取材先でバトり、会社の上司やデスクともやりあっていて……。私自身、「ちょっと大丈夫か?」と心配になりました(笑)。映画にはプライベートなシーンがほとんど入っていないから、よけいそう感じられるのかもしれません。
 森さん特有のいじり、というか、私が国会の中で迷ったり、おっちょこちょいなところもきっちり撮られていて、笑えるシーンもたくさんあると思います。仕事の合間に軽食をとるシーンもいくつかありますが、あんなふうに食べているのかと……家族には見られたくないですね。
 まじめなところでいえば、やはり今の政権がどういったことをしているのかを改めて感じさせるものでした。


© 2019「i-新聞記者ドキュメント-」製作委員会


――というのは?

望月:たとえば、私が菅官房長官の会見で質問するシーンが多く出てきます。そこで映し出されるのは、菅さんの「ご指摘には当たりません」「あなたの質問に答える必要はありません」といった対応です。記者の背後にいる市民の皆さんに対して、丁寧な説明をしているとは思えません。
 さらに準強姦事件にあった伊藤詩織さん、「あったことをなかったことにはできない」と会見した当時の文科省事務次官の前川喜平さんなど、関係者が次々に登場します。現政権下で起こった一つ一つの問題はその時々で取り上げられますが、一本のストーリーとして見ることで、あんなこともあったこんなこともあった、と改めておどろかされるのでは、と思います。しかもそれらの問題はほとんど解決していません。
 現実はシリアスなのですが、そこは森さんなので、エンタメ的にも見せてくれてすごいなと思いました。


――そもそもこの映画はどういったきっかけでできたのでしょうか。

望月:2017年10月に『新聞記者』(角川新書)という本を刊行したのですが、それを読んだ映画プロデューサーの河村かわむら光庸みつのぶさんから、この本を原案にした映画を作りたいというお話をいただきました。本が出てすぐ、1か月たつかどうかというタイミングだったと思います。そうして完成したのが今年6月に公開された映画『新聞記者』です。シム・ウンギョンさんと松坂桃李さんのダブル主演で、本とはまったく別のフィクションとして完成、当初の予想を超えて46万人を動員し、興行収入も5.8億円を突破したそうです。
 映画を作りたいというお話のすぐ後に、再び河村さんから連絡があり、ドラマとしての『新聞記者』とは別に、ドキュメンタリー版の映画『新聞記者』を作りたい、森達也さんに望月さんを撮ってもらいたい、というお話がありました。2017年の年末だったと思います。まだドラマ版の映画の話を始めたばかりでしたから、もう別の映画のことも考えているのかとおどろきました。


原案となった、角川新書『新聞記者』


森監督が描く「集団と個」


――『i ―新聞記者ドキュメント―』の撮影はいつから行ったのですか。

望月:実際に撮り始めたのは、今年1月ごろからでした。森さんか助監督の小松原茂幸さん、どちらかが私の取材に同行し、カメラを回してくれました。2019年1月には沖縄の辺野古の埋め立ての現場にも一緒に行きました。そこでは埋め立て用の土砂が赤土ではないか、という疑問に対して沖縄防衛局の会見があったのですが、こちらが聞きたいことに答えてくれない。新聞だったら「答えなかった」で終わるところですが、映像なので、防衛局の幹部たちが逃げるように会場を後にする様子や表情までが映し出されています。映像の強さを感じました。
 最終的に撮影は9か月にもわたりましたが、私自身は「これで映画になるのかなぁ、大丈夫かなぁ」と思っていました(笑)。最後は、森さん、小松原さん、鈴尾啓太さんが寝ずに編集作業を行ったようです。膨大な撮影量だったのでかなり大変だったのではと思います。


――森監督の作品を観ていつもおどろくのですが、ノンフィクションを飽きさせずに2時間も見せるのはさすがですね。

望月:スピーディに、テンポ良く見せますよね。少し前に観た映画『主戦場』が思い浮かびました。


――撮影中、森監督とはどんなやり取りがありましたか。

望月:森さんはけっこうノセてくるんです。たとえば、あるとき森さんが、週刊誌のあるコラム記事を持ってきました。「望月さん、こんなことしてたの?」と言いながら。その記事には、私が千葉支局にいたときに、東京の地検特捜部かどこかで取材しているように書かれていました。まったくの事実無根の話でした。
「こんなこと私、やってないですよ! そもそもそのときは千葉支局にいましたから!」と言ったら、「それはとんでもないことじゃないですか」「〇〇さん(この記事を書いた著者)に取材しましょう!」って。あやうく突撃するところでした(笑)。
 私は撮られながら、「森監督のことだ、安心しないほうがいい。ノセられたらダメだ」と自分自身に言い聞かせていました(笑)。制作する側と私の間には緊張感があり、押したり引いたりもありました。私を礼賛しているだけの映画ではまったくないと思います。


――森監督は望月さんを撮る理由を、「なぜ彼女が特異点になってしまうのか、撮りながら考える。だからあなたにも考えてほしい」と言っています。森監督がこの映画で伝えたかったことはなんだと思いますか。

望月:もちろん私を撮っていることを通じて、今の政権やメディア、社会が抱えるさまざまな問題点を問うているのだと思います。そこから森さんが描き出そうとしたのは、「集団と個」ではないか、と私は感じました。撮影の最初に森さんに聞かれたんです。「なぜ望月さんは会見で一人で質問しているの?」と。
 森さんの作品には常にこのテーマがあると思います。オウム真理教を追った「A」シリーズや『FAKE』……オウムのときは世の中がオウム信者たちの違法逮捕を望むようになっていました。ふだんは善良な一人一人の市民が、です。何かをまつりあげてしまう怖さ、同調圧力の空気の怖さ、集団心理の異常さ、なぜそうなってしまうのかを問いかけられていると感じていました。
 今回の映画『i ―新聞記者ドキュメント―』でも、特に後半、集団と個がクローズアップされています。
 私自身は、菅官房長官の会見に出始めてからの2年半を通して、個として戦うのには限界があり、ほかの記者や市民の方々と連帯することの大切さも感じています。たとえば2019年3月14日、新聞労連などが声をあげて記者たちが首相官邸前でデモを行いました。このデモの前日から、上村秀紀報道室長による私への質問妨害がピタッとやみました。私一人が何度言っても変わらなかったのに、です(少ししたらまた復活、抗議した後に止めていますが)。
 一方で森さんは、集団の中で個を失ってはいけない、集団心理の危うさを自覚していないといけない、と訴えているように感じます。映画の終盤にある写真が出てくるのですが、私もハッとしました。正義を訴える側も狂気となりうる、ということでしょうか。その危うさというのは、オウム真理教も現政権も、ある種の旋風となっているれいわ新選組も、どこにでもあてはまる、というのが森さんの問題意識ではないでしょうか。
 私自身、森さんと感じていること重なる部分もありますし、違うと思う部分もあります。気づかされたことも多くありました。


試写会後
左から、森達也監督・望月衣塑子さん・プロデューサー河村光庸さん


――6月に公開されたドラマ版の映画『新聞記者』もロングラン上映しています。

望月:テレビやラジオではほぼ取り上げてもらえませんでしたが、興行収入も動員も、当初の予想超え、現在も上映されてロングランになっています。『i ―新聞記者ドキュメント―』の公開をきっかけに、シアターキノ(北海道)、新宿ピカデリー(東京)、京都シネマ(京都)、シアターセブン(大阪)ではアンコール上映してくれるそうです。うれしいですよね。
 ドラマ版の映画は、吉岡エリカ演じるシム・ウンギョンさんの真剣なまなざし、杉原拓海演じる松坂桃李さんの家族と仕事の間で苦悩する表情、吉岡の上司役の北村有起哉さん、同僚役の岡山天音さん、杉原の先輩官僚役の高橋和也さん、杉原の妻役の本田翼さん……本当に皆さん個性的で素晴らしくて、観るたびに引き込まれてしまいます。
 予想を大きく上回る結果になったのは、ひとえに映画に携わった方々の熱意のたまものだと思います。


――それをうけて、いよいよ『i ―新聞記者ドキュメント―』の公開、楽しみですね。

望月:私のいい面も悪い面も描かれていて、正直、恥ずかしいところも多々ありますが、森さんの問題意識や、今の世の中で起きていること、メディアや政治家、官僚のおかしさなど、さまざまなことを感じてもらえる内容だと思います。
 講演会に呼んでいただいて話をする機会があるのですが、最後の質疑応答では「モリカケ問題は終わりなのですか」「伊藤詩織さんの事件はどうなっているのですか」と今もよく聞かれます。多くの方の心のなかでモヤモヤし続けていて、このままでいいのか、という気持ちがあるのだと思います。そういったことを改めて見つめ、考えるきっかけになるのではと期待しています。

(編集部追記)『i ―新聞記者ドキュメント―』は、先行上映された東京国際映画祭で、日本映画スプラッシュ部門の作品賞を受賞しました。(全文は引用元へ…)

引用元 https://kadobun.jp/feature/interview/e7aspz9wv808.html

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