2月22日、日経平均株価がバブル期以来の史上最高値を更新し、3月4日には4万円台に乗せた。 経済学者の竹中平蔵氏は「株高ではありますが、本質的に日本経済は変わっていません」と切り捨てるーー。みんかぶプレミアム特集「日本・世界経済こう変わる」第2回。
最近、「高圧経済」「ハイプレッシャー経済」という言葉が使われるようになりました。これは、多少のインフレを許容して、需要に圧力をかけて成長を目指すという考え方です。そうなると、人手不足で労働者を雇えない企業は潰れ、雇える企業のところに人が移っていくことにより、その企業の生産性は上がっていきます。それにより、全体の経済が良くなっていくのです。つまり淘汰を進めるような資金、資産、経営資源の移動を進めるようなプレシャーが日本にも必要なのかもしれません。
続きを読む今日本は、補助金と低金利でプレッシャーがとても下がっているのです。なので、日本は低位安定社会になっています。失業率は低いですし、倒産件数が増えたといっても大した数ではない。格差が拡大しているといっても、欧米に比べればそこまで広がっていない。インフレも同様で欧米ほどの状況にはなっていません。 ただ、それではなかなか企業も成長しないし、国民の給料も上がらないのです。給料を上げるためには生産性を上げる必要があります。日本全体の生産性を表す、一人当たりのGDPは、日本は2期連続マイナスです。それでは、国民がいくら給料を上げてほしいと訴えたところで、なかなか実現はできないでしょう。
そんな中で日経平均株価が4万円を一時突破しました。メディアでは連日「おめでたい話」として報道されていますが、読者の中には自分の実生活との関係を見いだせない人もいるのではないでしょうか。 株価が高くなるということは、もちろんいいことです。そして「自分は株を持っていないから関係ない」ということでもありません。例えば私たちの年金基金は多くの部分で株価の影響を受けています。株高が続くことによって私たちの年金資産が高くなった、というのはわかりやすい説明になるかもしれません。 また、株価が上がることによって企業は資金調達や新たな投資がしやすくなります。それがマクロ経済を引き上げることになれば、いずれ国民一人一人に還元されるようになってきます。ですから、株価とは今は実感がなくても、自分たちの生活に影響を与えているのです。
では、この株高に対して日本経済の実態はあるのか、という問いに関しては意見が分かれています。一つは非常に日本経済を評価している人がいます。海外投資家や外資系エコノミストなどからは「日本企業の態度が変わった」などという評価を聞きます。何年前からつくってきたコーポレートガバナンスコードがジワジワと効いてきている、と。これまで貯めてきた内部留保を投資や株主還元に使うようになってきているという見方です。 ただ、日本の経済を苦しめてきた規制が変わったかというと、ほとんど何も変わっていません。政府の政策という意味でいうと、日本の経済が強くなっているわけではありません。 で、私がどう考えるかというと、正直、そんなに日本企業も変わったとは言えないと思っています。海外勢が言うほど、日本企業のコーポレートガバナンスが改善したとは考えられません。ただ、今まで企業が貯めすぎてきたキャッシュを一部使いだしているとは感じています。昨年、東京証券取引所による改善要請をうけたPBR1倍割れ企業などが「自社株買い」などをしましたが、それ以外にも大きな買収案件も頻発するようになったと思っています。
今、日本企業の収益はあがっています。その理由は、日本はいわゆる”コロナ明け”が欧米諸国に比べて遅かったため、ここ1年くらい日本は経済再開によるボーナスが大きかったのです。そして為替安の恩恵をグローバル企業が受けています。日経平均を構成する企業は基本的には海外展開しているような大企業ですから、そういった企業の利益が円安によって膨れて見えているのですね。 ですが、やっぱり心配なのは、政府の改革が何も進んでいないことです。先日、政府がまとめたライドシェア案など、その典型です。タクシー業界の言いなりになった内容でしたね。ようするにこれから成長する可能性が高い産業に対して、政府が国民に「やるな」と発信したようなものです。ライドシェアの法律を考えようという姿勢が見られ、希望をつないだという面はあるのですが、現状ではタクシー業界のためのものになっています。基本的にはタクシー業界のアルバイト雇用に関する法律になっているのですから、はっきり言って「なんちゃって改革」です。
竹中 平蔵
引用元 https://news.yahoo.co.jp/articles/bcb585471c733e3b92afc26e7a76d5f6bb71c3fa?page=2