年が明け、春闘の季節が近づくにつれて、賃上げに関する議論が活発化している。昨年の春闘は、これまでにない水準の賃上げが実現し、今年も大企業を中心に4~5%の賃上げが実現する可能性が高い。
金利上昇で業績が拡大傾向となっている金融機関を中心に、初任給を30万円あるいは40万円など、従来よりも高い水準に設定する企業も出てきており、企業における賃上げ機運は高まっているといえるだろう。
もっとも、積極的な賃上げを表明しているのは大企業が中心であり、労働者の7割を占める中小企業には、賃上げの動きは十分に波及していないのが実情だ。中小企業は大企業の下請け的な業務に従事しているケースが多く、大企業が中小企業に対してコストの価格転嫁を認めない限り、中小企業は賃上げ原資を確保しにくい。
石破政権は賃上げを政策の最重要課題の1つと位置付けており、2020年代に最低賃金を1500円に引き上げる方針を掲げるとともに、適切な価格転嫁を促す施策の立案を関係閣僚に指示した。旧態依然とした商慣行が賃上げを阻害している現実を考えると、石破政権の一連のスタンスは相応に評価していいだろう。
(一部省略)
日本の法人税は度々減税されており、企業にとってもはや減税そのものは魅力的には映らなくなっている。むしろ賃上げや設備投資に消極的、あるいは下請けの価格転嫁を認めない企業に対して、法人税率を上げたり、優遇税制を停止するなど、いわゆる逆のインセンティブを付与するなど、厳しめの措置も必要となってくるだろう。
このところ国民からは賃上げではなく減税を求める声が高まっているが、これは賃金はもう上がらないのではないかという不安から生じたものといえる。国民生活を向上させる切り札はやはり賃上げであり、政府はこの本丸を攻めることに注力すべきである。
債券市場ではジワジワと長期金利が上昇しており、このまま何もしなければ景気拡大なき金利上昇時代に突入してしまう。政府にとって、継続的な賃上げを実現するまでに残された時間は少ない。
[全文は引用元へ…]Newsweek
【ツイッター速報さんの投稿】
引用元 https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2025/01/post-311.php
賃上げが日本経済の命運を握るという議論が活発になっている。確かに、賃金の上昇は国民の生活向上につながる要素の一つであり、特に物価高が続く中で収入が増えることは多くの人にとって歓迎すべきことだ。しかし、単純に賃上げさえすれば経済が好転するという考えには疑問を感じる。日本の構造的な問題を考えると、賃上げだけでは根本的な解決にはならないのではないか。
まず、大企業の賃上げが注目されているが、日本の労働者の約7割は中小企業で働いている。大企業が4~5%の賃上げを行ったとしても、それが中小企業にまで波及しなければ、多くの国民にとって実質的な恩恵は限られる。中小企業が賃上げを実現するためには、利益を確保できる環境が必要だ。しかし、現実には大企業からの価格圧力が強く、コストの価格転嫁が十分に行われていないことが問題となっている。
賃上げを実現するためには、まず企業の利益が安定して増える仕組みを作る必要がある。今の日本では、物価高騰やエネルギーコストの増加などによって、企業の負担が増している。特に中小企業は、売上が伸び悩む中で原材料費や人件費の上昇に直面しており、賃上げの余裕がないという声が多い。政府が最低賃金の引き上げを進めるとしても、それだけでは企業側の負担が増すだけで、経済の活性化にはつながりにくい。
賃上げを促進するためには、単に企業に賃金を上げるよう求めるのではなく、企業が利益を確保しやすい環境を整えることが重要だ。そのためには、減税や規制緩和といった政策が欠かせない。特に法人税の引き下げは、企業が賃金を引き上げる余裕を生み出す要因となる。海外と比較しても、日本の法人税は依然として高い水準にあるため、これを引き下げることで企業の負担を軽減し、従業員に還元しやすい環境を作るべきだ。
また、消費税の減税も重要なポイントだ。賃上げをしても、消費税が高いままでは実質的な可処分所得の増加につながらない。現在の物価高の状況を考えると、賃上げと同時に減税を進めることで、より効果的に国民の負担を軽減できるはずだ。実際に、世界的に見ても消費税を引き下げる動きがある中で、日本だけが増税を進めてきたことには疑問を感じる。
石破政権が賃上げを重要課題として掲げていることは評価できるが、それを実現するための政策が十分かどうかは慎重に見る必要がある。最低賃金の引き上げは、中小企業にとっては大きな負担となるため、それを補うための支援策が不可欠だ。また、価格転嫁を促すといっても、大企業がそれに応じる保証はない。実際、これまでの日本の商慣行を見ても、中小企業にしわ寄せが行くケースが多かった。
賃上げの議論が進む中で忘れてはならないのは、労働環境の改善も同時に進めるべきだということだ。賃金が上がったとしても、労働時間が長く、過重労働が常態化している企業では、従業員の負担は減らない。特に中小企業では、人手不足が深刻化しており、一人当たりの業務量が増えているケースが多い。この状況を改善するためには、労働時間の短縮や働き方改革を本格的に進めることが必要だ。
賃上げが経済成長のカギになるという考え方は理解できるが、それだけで解決する問題ではない。むしろ、賃上げと同時に、企業が利益を確保しやすい環境を作り、国民の負担を軽減するための減税を進めることが不可欠だ。日本の経済が長期停滞から抜け出すためには、単なる賃上げの議論にとどまらず、より包括的な経済政策を進める必要があると強く感じる。
執筆:編集部A