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さて、その結果、今、何が起こっているかというと、働かない人が増えた。 ジョブセンター(日本でいうハローワーク)の発表によれば、23年の12月、市民金受給者の72%が、健康で働く能力があるのに働いていない人だそうだ。働けるのにジョブセンターの斡旋する就職を断り続けると、補助は10%カットになるが、それぐらいの制裁では働くモチベーションは湧かないらしい。理由は簡単。低賃金で働く場合の賃金と市民金の額に、ほとんど差がないからだ。
本来、社会保障というのは、病気や他の事情で働けない人が路頭に迷うことがないよう、皆で助け合う理想的なシステムだ。しかし、そのための絶対条件は、働いている人の賃金と、働かずに受ける補助の間に、明確な開きがあること。そうでなければ、いくら就労に精神的、倫理的な意味をくっつけようが、当然、「働かない」という選択をする人が多くなる。現在の状態がまさにそれだ。
大手ニュース週刊誌『シュピーゲル』は4月11日付の記事でその実態を取り上げ、タイトルは『フバートス・ハイル、我らの労働妨害大臣』。サブタイトルが「否定しても無駄:研究が、市民金が労働市場にとっていかに有害であるかを示している」。これまでいろいろなメディアが、「市民金のおかげで労働が割に合わなくなったというのは正しくない」として政府を擁護していたが、『シュピーゲル』誌はそれを真っ向から否定したわけだ。
調査会社Statistaによると、24年3月までに市民金を受けた人の内訳は、労働が可能な人が400万人で、不可能な人が150万人。合計すると550万人で、これはドイツの全人口の6.5%に上る。また、連邦雇用庁の発表した2023年9月のデータでは、市民金受給者の3分の2が移民の背景のある人たち。中でもダントツがウクライナ人で、現在ドイツに避難している120万人のうちの70万人、次に多いのがシリア難民で、97.2万人のうち50.1万人が市民金で生活しているという。
現在のドイツの市民金の額は、低賃金で働いている人の収入と差がないどころか、条件によっては多くなる。市民金の額自体は、フルタイムの低所得者の受け取る額よりずっと少ないが、前述のように、市民金受給者にはその他、家賃、光熱費の全額手当が入る。子供がたくさんいれば、子供手当も増えるし(ドイツの子供手当は一人につき250ユーロ=約4.2万円)、シングルマザーの場合はいろいろな補助がさらに割り増しされる上、父親からの養育費が入るケースも多い。 一方、労働者はその反対で、安い給料から、通勤の運賃やガソリン代を払い(交通費の補助は無いか、あっても全額ではないケースが多い)、身だしなみも整えなければならない。就労による満足感とストレスの度合いは個人差があるだろうが、共通しているのは自由時間が少ないこと。その点、市民金の受給者は時間がたっぷりあり、闇アルバイトも蔓延っているというが、摘発にはとても手が回らず、多くは見逃されている。 続きは引用元
引用元 https://news.yahoo.co.jp/articles/e80a50ab57b19797b2fb107bd6aba3ddd6122981?page=3