英国政府は今年8〜9月に600人以上のブラジル人を送還したと、1日付の英国紙オブザーバーが報じた。ブラジル政府は強制力を伴うものではなく、自発的帰国プログラム(VRS)だと説明。帰国者には109人の子どもが含まれ、航空券と最大3千ポンド(2万2813レアル、56万7千円相当)が支給されたという。(1)同プログラムを利用して帰国したブラジル人女性が、その実態を2日付G1(2)で語った。
中部ゴイアス州サンシモン出身のアナ・クラウジア・モライスさんは、家を建てる資金を稼ぐ目的で2021年4月に渡英。清掃業で3年間働いたが、妊娠を機に帰国を決意。ロンドンのブラジル人支援センターから帰国支援プログラムを知らされ、在ブラジル英国大使館に連絡し、帰国便と支援金の提供を受けたという。
アナさんによると、7月30日に同プログラムの申請を行い、9月11日発の航空券が渡されたという。「帰国航空券とともに3千ポンドを受け取りました。この金額はカードにチャージされ、ブラジルで引き出せるもの。ですが、英国の入国管理システムに情報が登録され、帰国後5年間は英国再入国を禁止されると告げられました」という。彼女によれば、この支援金は祖国再定住を助ける名目で提供され、到着後すぐに全額を引き出すよう強調されたという。
アナさん以外にもこのプログラムを利用したブラジル人が多くいたが、帰国方法は分散され、商業便で少人数ずつ移送された。「私の場合、通常の便で帰国しました。他の帰国者は最大で4人ずつ分けられ、チャーター便ではありませんでした」と説明した。
だが、英国政府は3回の秘密便を利用し、送還を進めたとも報じられている。8月9日、23日、9月27日の政府が用意した航空便では、計629人が帰国したと報じられ、このうち109人は子どもであり、多くが英国で生まれ育った可能性が高いと指摘されている。オブザーバー紙は、特定の国籍を対象にこれほど大規模な作戦を行ったのは初で、子供が含まれていることも前例がないと強調した。
英国政府は、不法滞在者や亡命申請が拒否された人の帰国を移民対策の一環と位置づけており、過去5年間で最多の送還者数を記録したと述べた。
移民政策の責任機関である英国内務省が11月28日に発表した国外退去の統計によると、7〜9月までの間に8308人の強制送還と自主帰国が行われた。この数字は昨年同期より16%多い。報告書はその大半(6247人)が自発的だったとしている。
英国政府報道官はオブザーバー紙に対し、不法移民の強制送還を増やす計画を実施しているとし、「これにより、ホテルや宿泊施設への依存を減らし、向こう2年間で40億ポンドを節約できる」と強調している。
一方でブラジル外務省は「このプログラムはブラジル人が自発的に参加したものであり、強制送還ではない」とし、領事支援の原則に沿っていると主張。英国政府との合意は「参加者の意思が自発的であること」を条件とし、条件が変更された場合には見直しが可能だとしている。
今回の帰国措置は、7月5日に首相に就任したキア・スターマー政権発足直後に実施された。同首相は、移民流入の抑制を公約として掲げており、移民対策強化を進めている。移民政策厳格化は今後も続く見通しだと報じられた。
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【髙橋𝕏羚@闇を暴く人。さんの投稿】
引用元 https://www.brasilnippou.com/2024/241203-11brasil.html
今回の英国政府によるブラジル人送還プログラムについて、移民政策が抱える複雑な問題を改めて考えさせられました。このプログラムが自発的帰国を促進する名目で実施されたとはいえ、実質的には強い制約のもとでの帰国だったのではないかという印象を受けます。一方で、移民問題が深刻化する現代において、各国がどのように対応するべきかについて議論が必要であるとも感じます。
まず、このプログラムに参加したアナさんのケースから見ると、一定の経済的支援を受けて帰国したことがわかります。しかし、英国での再入国が5年間禁止されるという制約は、実質的な自由が奪われた状態に等しいと感じます。この制約が、自発的な意思というよりも実質的な強制力を伴うものではないかと疑問を抱かざるを得ません。
さらに、109人の子どもが含まれていた点についても注目すべきです。多くの子どもたちは英国で生まれ育った可能性が高く、彼らにとっての「故郷」は実際には英国であると考えられます。そのような状況で祖国へ帰ることを強いられるのは、心理的負担が大きいのではないでしょうか。特に、教育環境や生活環境が大きく変わることによる影響が懸念されます。
英国政府が移民政策を厳格化する理由として、宿泊施設やホテルへの依存を減らし、経済的負担を軽減することを挙げています。確かに、移民が増加することで生じるコストは無視できません。しかし、短期的なコスト削減のために人道的な配慮が不足している場合、その影響が長期的に国のイメージや社会全体の安定性に悪影響を与える可能性があると思います。
一方で、ブラジル政府がこのプログラムを「自発的帰国」と主張している点については、双方の立場が交錯する難しさを感じます。自発的であるとする一方で、帰国後の再入国禁止や支援金の全額引き出しといった条件が課されている以上、真の意味での自由な選択が行われたとは言えないのではないでしょうか。
また、英国政府が過去5年間で最多の送還者数を記録したという点も重要です。これが一時的な政策ではなく、今後も続く見通しであることを考えると、移民政策全体が厳格化の方向へ進んでいることが明らかです。この流れが他国に波及し、移民に対する締め付けが国際的に強まる可能性も否定できません。
移民政策の厳格化は、経済的な理由や治安維持といった観点から一定の理解は得られるかもしれませんが、同時に人道的な課題も抱えています。国際社会が協力して移民問題に取り組むことが求められる中で、一国の都合だけでの対応は長期的な解決策にならないでしょう。特に、受け入れ国と送還国の間で移民の処遇について透明性のある議論を進める必要があります。
今回のケースでは、帰国したブラジル人が支援金を受け取ったものの、その後の生活支援や再定住プログラムが十分に機能しているかどうかは不明です。送還された人々が新たな生活を築けない場合、結果的に問題が深刻化する可能性もあります。送還だけで問題を解決しようとするのではなく、帰国後のフォローアップを強化することが重要です。
移民政策の強化は、一国の内政問題であると同時に国際的な課題でもあります。人道的な観点を忘れずに、公平で効果的な政策を模索していく必要があると感じます。
執筆:編集部A